مشاركة

3 突然抱き着く理由なんて色々ある

مؤلف: 栗栖蛍
last update تاريخ النشر: 2025-05-15 08:53:27

 転校生と湊は、どうやら知り合いのようだ。

 再会した二人の抱擁にクラス中が湧き上がる中、芙美は入試の時に咲と初めて会った時の事を思い出していた。緊張しながら教室へ踏み込んだところを、待ち構えた咲に突然抱き着かれたのだ。

 ――『会いたかったよ』

 同じだなと思った。けれど、真っ赤な顔で目を潤ませる咲と芙美は初対面だ。受験当日という事で困惑してしまったが、後に咲が説明してくれた。

 ――『この町の学校は女子が少なかったんだ。だから外から可愛い女の子が来てくれたのがとっても嬉しかったんだよ』

 確かに新入生15人のうち女子は5人で、地元出身は咲1人しかいない。他はみんな町の高校へ行ってしまったらしい。そんな記憶を重ねながら斜め前の席に座る彼女を伺って、芙美は『あれ』と首を傾げた。湊たちを見つめる横顔が、今にも泣き出しそうに歪んでいたからだ。

「そろそろいいですか?」

 担任の中條の声で湊が「はい」と素っ気なく席に着くと、転校生が黒板の前へ戻って何事もなかったように自己紹介を始めた。

 小さく唇を噛んだまま彼に向けられた咲の視線は、怒りさえ含んでいるようにも見える。

「咲ちゃん……?」

 音にならない程の声でそっと呟いたところで、芙美の視界を人影が塞いだ。「よろしく」という男子の声に顔を上げると、今しがた教壇の横に居た転校生が目の前で芙美を見下ろしている。

 自分の席が空席を置いて一つ後ろに下げられていた理由は察していた。それなのに咲に気を取られているうちに、彼の自己紹介を聞き逃してしまったらしい。

「よろしく。えっと……」

 慌てて黒板を見て、彼の名前を確かめる。

「長谷部(はせべ)、智(とも)くん」

 「おぅ」とはにかんで、智は前の席に腰を下ろした。咲はこちらを振り返ろうとはしない。

 中條は教壇に手をつくと、改めて話を始めた。『夏休みを終えて、新学期への心構え』と題した内容に、クラス中が上の空状態になる。そんな中、智が窓際の湊へ一方通行の視線を飛ばしているのに気付いて、芙美はそっと声を掛けた。

「長谷部くんって、湊くんの知り合いなの?」

 彼の行動が気になって、聞かずにはいられなかった。湊とはいつも色々と話はしているつもりだが、特定の友人というのは彼の会話に登場したことが無い気がする。しかも会った瞬間に抱擁を交わすなんて、ただの友達とも思えない。

「気になる?」

 廊下側の壁に背を当てて、智は悪戯な笑顔を見せた。

 彼は「うん」と大きく頷いた芙美に、「そうだよ」と答える。

「それって、二人が男同士で……」

 芙美があらぬ妄想を切り出した所で、智は「違う違う」と右手を振った。

「俺たちは昔から知り合いなんだよ。生まれる前からの。17年ぶりに会ったら、抱き着きたくもなるでしょ?」

 芙美は「えっ?」と瞳を開いて、混乱したまま「そう……かな」と首を傾げた。

   ☆

 芙美の頭を疑問符でいっぱいにさせた智は、「ナイショ」だと笑うばかりでそれ以上の説明は何もしてくれなかった。

 真相の分からないまま下校時刻になって、いつものように咲が「帰ろう」と芙美の所に飛んでくる。智の事ですっかり忘れていた彼女の涙を思い出して、芙美はそっと声をひそめた。

「咲ちゃん、今日泣いてなかった?」

「泣いてた? 私が?」

 昇降口に向かいながら、咲は身に覚えのない顔で首を捻る。

「ほら、湊くんが転校生の長谷部くんと……」

 芙美がそこまで説明したところで、咲は「あぁ」と手を打った。

「男同士で抱き着くなんてキモイって思っただけ」

「えぇ?」

 それであんな顔をするとも思えないが、「いいのいいの」と咲に肩をバンバンと叩かれて、はぐらかされてしまう。芙美は「もぅ」と唇を尖らせた。

「みんな私に隠し事ばっかりしてない?」

「みんなって?」

 言ってもいいのか迷ったけれど、モヤモヤしたままの気持ちを共有したくて、芙美は智の言葉を咲に伝えた。口止めされてもいないし、何度考えても意味がよく分からない。

「ねぇ、おかしなこと言うでしょ? 何なんだろう、『生まれる前からの知り合い』って」

 そのワードがどうしても引っ掛かる。スッキリしない気持ちで溜息を零す芙美の隣で、咲がピタリと足を止めた。

 一瞬きょとんとした彼女が突然前方を睨みつける。

「咲ちゃん?」

 校門の方向で、まさに話題の二人が肩を並べて歩いていた。

「ほぉぉお。あいつらは、生まれる前から仲良しこよしだったって訳か」

「そういうことなの……かな?」

 咲の言葉に納得しつつも、そんなこと実際にあるわけはないと芙美は思っている。

「面白い。聞き出してやろうじゃないか」

 咲は悪だくみする悪代官よろしく、不気味な笑顔を芙美に向けた。

「芙美、この後クリームソーダ食べに行こうよ」

「えっ本当? 久しぶりに行きたかったんだ」

 咲の提案に、芙美は声を弾ませる。

 白樺高校生徒の憩いの場である、駅前の田中商店で売られているクリームソーダが芙美は大好物だった。夏休み中はこっちに来ることもなく、一学期の終業式の日以来1ヶ月食べていない。

「じゃあ、決まりだな」

 咲はニカッと笑って校門へ向けてダッシュする。

 そして風紀委員の伊東も驚くような猫なで声で、ターゲットの二人を呼び止めたのだ。

「ねぇ、そこのお二人様ぁ。待って下さらなぁい?」

 咲の声に振り返った湊が、化け物にでも遭遇したような顔をしたことは言うまでもない。

استمر في قراءة هذا الكتاب مجانا
امسح الكود لتنزيل التطبيق

أحدث فصل

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   エピローグ

    『最近、咲が元気なくてさ』 朝、蓮にそんな相談をされたものの、芙美の頭は今日の追試のことでいっぱいだった。 ハロンを倒して三週間が過ぎた二学期最後の登校日、放課後の教室に残ったのは芙美と他に数人だけだ。最終戦の直後に行われた期末テストの結果が予想以上に悪く、三教科も追試なった。 あんな戦いの後でも湊はいつも通り一位をキープして、智も鈴木を抑えて二位に並んだ。左腕にギプスをはめたままテストを受けた咲でさえ八位だ。「はい、合格です。ちゃんと復習しておいてくださいね」 教壇の椅子で採点する中條からプリントを渡され、ようやく解放される。どっと込み上げた疲労感を背負って教室を出ると、廊下で湊が待ち構えた。「お疲れ様」「湊くん、ずっと待っててくれたの?」「いや、向こうの準備手伝って戻ってきた」 ハロン戦の祝勝会を兼ねてクリスマス会をやろうと言い出したのは、外ならぬ絢だった。 戦いが終わったらターメイヤに戻ると言っていた一華を気にして、最近絢と話をしていない。だから満を持しての発表があるのかと思うと、素直にパーティを喜ぶことができなかった。 校庭では雪合戦をする小学生の声が響いている。昨日降り積もった雪で一面が真っ白になって、競い合うように作った雪だるまが大小いくつも並んでいた。 あの日空間隔離を解いた町が、戦いの爪痕を残すことはなかった。全て夢であったかのような平和な時間が流れている。大人たちもすぐに元の姿へ戻り、結局芙美はルーシャの顔をした絢に会うことはできなかった。 チュウ助は他の誰にも懐かず、今は湊のマンションで暮らしている。ペットは駄目だが鳥ならOKという約款を無理矢理押し通したのと、絢が周囲に催眠効果のある魔法をかけた事でどうにか受け入れられている。「ねぇ湊くん、咲ちゃん元気だった?」 テストから解放された頭がふと朝の蓮を思い出した。「海堂? 別に変わった様子はなかった気がするけど。何かあった?」「うん、お兄ちゃんがちょっとね」「お兄さん? 具合でも悪いの?」「ううん、うちのお兄ちゃんは元気だよ。ただ、咲ちゃんが──ね」 あの日学校の屋上でハロン戦を最後まで見ていた蓮は、その記憶を今もちゃんと覚えている。戦いが蓮の目にどう映ったのかは分からないが、彼が芙美にその話題を振ることはなかった。 湊が言う通り、今日の咲は芙美の目にも

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   175 終わりだよ

     雨と雪をたっぷり吸ったドロドロの土を弾きながら、芙美はハロンの背を追い掛けて坂を一気に駆け上がった。ハロンに踏み潰された木や草や石が土にめり込んで、広場までの一本道を作っている。 智と離れてぶり返す寒さも、走っているせいでむしろ心地良く感じられた。 弱まったとはいえ、ハロンの気配はまだまだ強い。 体力なんて残っていなかったが、それでも足を動かせる原動力は咲がくれた言葉だ。 ──『僕はどっちでもいいよ。生きて明日を迎えられるならね』 明日もその先も、何度でも朝を迎えるために。 この戦いは、リーナにとっての雪辱戦だ。「これが本当に最後だよ」 広場の方向からズゥンと腹を震わせるような重い音が絶え間なく鳴り響いている。 芙美は闇の先にハロンの背を捉えて、足を速めた。 広場に出て絶句したのは、不安が現実になる瞬間だったからだ。 闇に響く音は、この世界と外の世界とを繋ぐ境界線が震える音だった。遥か高い位置にある次元の歪みを、ハロンの頭が塞いでいる。「あそこまで飛んだの?」 一見信じられない光景だった。 ビル程の身体を持つハロンが羽のない状態で跳び上がったとは思えないが、首吊り状態でもがく巨体は頭をぐいぐいとねじ込んで、収縮し始めた穴を湾曲した爪でこじ開けようとしている。 地団太を踏むように暴れる身体が左右に振れて、ギシギシと嫌な音を響かせる。 ハロンは元居た場所へ帰ろうとしているのか──それは次元隔離をするのと同じことだ。「羽を失ったから? だからそこへ行きたいの?」 ターメイヤでの戦いで失った羽は、次にこの世界に出た時にはすっかり元通りに再生していた。その穴に入れば修復できることを、ハロンは知っているのかもしれない。 次元隔離の魔法でこのまま押し込むのは簡単なことだけれど、その選択は同時に芙美の再転生を意味する。「どうすればいいの?」 十七年ぶりに外の世界へ出て、閉鎖的な隔離空間の壁を突き破ろうとしたハロンが、再び次元の歪みに戻ろうとしている。 羽を失う事が、やはりハロンにとって致命傷になったようだ。「やっぱり、湊くんはすごいんだな」 ただ必死に生き延びようとする様は、人間らしいとさえ思えた。「引きずり出せよ、芙美!」 遅れて着いた仲間が、声援をくれる。 旗を振る咲を支えていた智が彼女を中條へ託し、芙美の横に並んだ。

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   174 バトンタッチ

     湊が足元へ突き刺した剣が、落雷を思わせる音と青黒い光を走らせる。足元に刻まれた放射状の亀裂が地面を砕き、バンと垂直に跳ね上がった。 芙美たちは頭上に降り落ちる土や石を避けて後ろへ跳び退る。湊から大分離れたつもりだったが、抉れた地面の端が数メートル手前にまで迫り、芙美は「ひゃあ」と叫んで咲と手を取り合った。 そんな女子二人に、智が声をかける。「目、放しちゃ駄目だよ」 促されるまま湊に向くと、彼の黒く小さな影がハロンの背に跳んで二枚の羽を一振りで切り落とした。 羽を取られたハロンが引力のまま地面へ落ち、すぐ横の川が衝撃で決壊する。轟音を立てて流れ込んだ水があっという間に水だまりを作った。雪の混じる白い風景がみるみると血に染まり、生々しい臭いを漂わせる。 智が陥没した地面の淵に立って文言を唱えた。彼の手から伸びた光が水面に浮かぶ二枚の羽を狙い、業火で包み込む。 炎が風景を赤く照らし、黒く煤化した羽が散り散りになって舞い上がった。 向こうから湊が走って来るのが見えて、芙美は声を張り上げる。「湊くん!」 目の前に来た湊が両膝に手をついて肩を上下させる。咲は「凄いぞ」と声を弾ませて、彼の背中を勢い良く叩いた。 湊は眉をしかめつつも、ホッとした安堵を仲間に向ける。彼の頭上でピョンピョンと跳ねるチュウ助を、中條が覗き込んだ。「本当に懐いているんですね」「懐いてるっていうか、懐かれたっていうか。突然こんな風になっちゃって」「これはダズ鳥ですよ。知っていましたか?」「いや、知りませんでした。そうなんですか?」 湊は驚いて、丸めた背を伸ばした。目の前に浮いたチュウ助と目を合わせて、「マジ?」と首を傾げる。「あなたの御父上も、昔綺麗な成鳥を連れていましたね」「話に聞いたことはあります」「その鳥を連れているのは、あなたが強いという証拠です。ハロンの羽を捕った自分に胸を張りなさい」「はい」 湊は胸に跳び付いたチュウ助を抱きしめて、笑顔をこぼした。 辺りが少し明るくなったことに気付いて、芙美は空を仰ぐ。 ハロンは羽を捥がれた状態で、その痛みを逃すように大きく吠えた。前の戦いで雨を降らせた咆哮が、今度は雨をしずめて空に月を浮かばせる。「喜んで……良いのかな?」「まだだって」 勝機を垣間見た芙美の横で、智が「気が早いよ」と首を

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   173 血の雨、そして晴れ

     ハロンとの間合いを詰めようとダッシュした足が雨に緩んだ土にとられて、体勢を崩した。すぐに立て直したものの、四割減の勢いで跳び上がった身体は湾曲したハロンの爪に弾かれて地面に叩き付けられる。 少し前からやたらと騒がしいギャラリーが気になって仕方ない。 咲が大声を張り上げて、何やら言いたいことを一方的に言い切って、芙美と共に距離を離した。そうしたら今度は智や中條まで合流して、ワイワイと盛り上がっている。 キンと高い咲の声は、湊にとって耳障り以外の何物でもなかった。「声がデカいんだよ」 ハロンとの真剣勝負だというのに、気が散って仕方がない。敵に隙を見せてしまったのはあいつ等のせいだ──と、湊は搔きむしるように泥を掴んだ。 舌に絡んだ泥水を吐き出し、水を吸って重くなったコートを脱いで遠くへ放り投げる。身体は十分に温まっていた。 ハロンは威嚇するようにダンと足を地面に叩き付ける。溶けかけの雪を含んだ水しぶきが辺りに跳ね上がった。「湊、山なんて幾らでも壊していいんだからな!」 再び咲の声が届く。 さっきといい、今といい、彼女の言葉はもう腹いっぱいだ。 ──『湊! お前は必殺技を打てるんじゃないのか?』 まさか彼女の口からそれを聞くとは思わなかった。湊の思っている技と同じかどうかは分からないが、彼女が側を離れたことに意味があるのなら、合致するのかもしれない。 湊は今それを打とうとしている。 父から初めてその技を見せられた時、ラルはただカッコいいと思った。自分もいつか出来るようになりたいと期待したが、今の自分の成功率は良く見積もって七割だ。 棒切れの竿に張り付いた旗が風に重くなびいて、咲たちの位置を示す。 咲のお陰で広さは確保できていた。いつも面倒だ、やかましいと思う彼女を、湊は「流石」と笑う。「アンタがいて良かったよ」 勿論、その声が彼に届くことはないけれど。 技を打てば、もう自分は立っていられないだろう。 それでも今は、成功率の微妙な一発に賭けるしかない。このままダメージを与え続けても、空に逃げられてしまえばヤツは回復してしまうのだ。「倒せなくてもいい、芙美に繋げろ」 剣を構えると、チュウ助が「チュウ」と鳴いた。「チュウ助、お前は何かできるのか? さっきみたいなのがあると心強いんだけど」 黒いハロンの位置を示すように飛んだチ

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   172 その鳥の名前は

     咲は芙美の手を握り締めて、北へ向かって戦闘を離れた。 山側ではなく中央の道を選んだのは、カーブのある坂道では湊の様子が見られないと思ったからだ。後ろを何度も振り返り、彼の姿がギリギリ確認できる位置で止まる。「本当に必殺技なんて使えるのかな?」 心配する芙美に、咲は「わからない」と首を振る。 ──『技に集中しろ!』 ただ一方的に叫んで、独断で距離を離した。 それが湊にとってプレッシャーになるのか自由になれるのかはわからないが、彼の動きが少しだけ良くなったような気がする。「リーナ、ヒルス!」 背後から突然合流したのは智だ。 さっきまでハロンと戦っていた疲れも見せない彼にホッとしたところで、その背後に思いもよらない人物を見つける。「えっ、宰相?」 驚愕に声を詰まらせる咲をよそに、芙美が先に声を上げた。 ルーシャやメラーレが過去の姿に戻っていたように、彼もまた昔の顔をしている。「驚きすぎですよ」 鬼の宰相ギャロップメイこと中條明和は、いつものおかっぱ髪はそのままに、トレードマークである眉間の皴を深く刻む。彼は咲の添え木された腕と、緊張を忘れたような芙美の表情をチラと見て、涼しい顔を戦闘中の湊へ向けた。 「どうです?」と戦況を尋ねたところで、中條の顔が訝しげに歪む。「あれは……?」 咲よろしく、彼もまた湊の頭に乗る異物に気付いた。 チュウ助は湊の頭にしがみついたまま、たまに飛び上がってはその定位置へ戻るを繰り返している。「あれってターメイヤの鳥ですよね? どっかで見たことあるような……」 智も「あれ」と首を傾げた。「おそらくダズ鳥の一種だと思います。まだ成鳥ではありませんが」「ダズ鳥? は、はくしょん」 呟いた芙美が、寒さに震えて大きくくしゃみした。「リーナ寒いの?」「僕だって寒いぞ」 炎の魔法の効果で上着すら着ていない余裕顔の智に、咲は嚙みついた。足元の雪と降りっぱなしの雨のせいで、もう感覚がおかしくなっている。 智は「ごめんごめん」と謝って、小さく文言を唱えた。彼の指がキザっぽくパチリと音を鳴らした瞬間、緋色の明かりがパッと咲いて辺りが暖かい空気に包まれる。 雨は降っているのに、冷たいという感覚が一瞬で消えた。「えっ、お前こんな魔法使えたの? だったらもっと早くに……」「俺の側に居るのが条件な。あ

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   171 我儘を貫く

     記憶の石に込められた運命は、次元隔離の魔法だという。 もしこの戦いに決着がつかない時は、前世と同じようにハロンを次元の外へ追い出して、再び別の世界で迎撃する──そのメンバーは、この世界での生を絶たなければならないのだ。 選ばなければならない未来への選択肢の一つがそれだというのか。「ふざけるなよ」 怒りに捕らわれて、咲は声を震わせた。「そんなの駄目に決まってるだろ? 折角また会えたんだぞ? まだ一年も経っていないじゃないか」「咲ちゃん……」「僕は我儘なんだ。蓮とも別れたくないけど、芙美とだって絶対に別れたくない」「私だって、使いたくないよ」 芙美はそれを最終手段だという。けれど戦局が思う方へ向かず、葛藤しているのがひしひしと伝わってくる。 ハロンと必死に戦っている湊を信じてはいるけれど、芙美の焦りが伝わってきて、咲は苛立ちを募らせた。「湊はあの必殺技を使うことができるのか?」 剣士が出せるという必殺技は、兵学校で習ったわけじゃない。そんなのがあるという噂を聞いて、見様見真似でそれっぽいことをしただけで、結局ヒルスは技を取得することができなかった。 湊が使えるかどうかはわからないが、技の存在を知らないはずはないだろう。 昔の記憶が蘇って、咲は唇を噛む。 あれは魔法使いの真似事だ。魔法使いに嫉妬した剣士が面白半分に生み出した技だという。「分かるよな、湊」 咲は小さな声で問いかけるように呟いた。その技を生み出したのは、ロイフォン──パラディンである彼の父親なのだ。 ハロンの正面に飛び上がった湊が、厚い皮に覆われた腹に剣を滑らせて着地したのを確認し、咲は声を張り上げた。「湊! お前は必殺技を打てるんじゃないのか?」 それは地表と剣を同化させ、地面を揺るがす技だ。 咲の声に気付いた湊が、一瞬ギャラリーの方を向く。闇に陰った表情は見えないが、彼もまた何かに迷っているようだった。「打てないのか……いや、打つことができないのか?」 その可能性を垣間見て、咲は戦場を見渡した。その技が放たれる瞬間を見たことはないが、辺り一帯の風景を入れ替えるほどの威力だと聞いている。 もし仲間を守る使命感に駆られているのなら、そんなのはお門違いだ。「湊、僕たちに遠慮することなんてないんだからな!」 雨が重い。湊にその声が届いているのかどうかは分から

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   162 仮面の女

     彼女もまたその姿になっている事は、メラーレから聞いていた。「もう起きたの? まだ寝てても良かったのに」 ここ数ヶ月で聞き慣れたよりも少し低い声は、やたら耳に馴染んだ。十七年の時を経て、懐かしさが込み上げる。「本当に戻ったんだな」 屋上に居たのは、仮面をつけた女だった。まるで仮面舞踏会にでも行くような、目元を大きく覆うものだ。暗闇に白く浮き出た銀色の髪は腰まで長い。黒髪の絢とは別人のようだが、彼女の元の姿を考えれば違和感はなかった。「何でそんなの付けてるの?」「女はね、少しでも若く在りたいと思うのよ」 地球では、ほぼ二年で一つずつ歳をとっていくという。 魔法で若返っていた絢と

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   158 覚えてる?

     自分も戦いたいと無理言って仲間に加えて貰ったものの、いざハロンと向き合ってやられるまではあっという間だった。死ぬことさえ覚悟した時、最後に会いたいと思ったのは、芙美ではなく蓮だ。 実際に現れたのは智だったけれど、彼のお陰で自分はまだ生きている。 記憶と夢が混ざり合って、ゆっくりと意識が戻って来た。「咲?」 誰かに呼ばれた気がしてゆっくりと目を開く。寒空の下で途切れた記憶が、蛍光灯の灯りと布団の温もりに繋がった。 急に小さな地震が起きて、微睡んだ視界が鮮明になる。 右手を握られた感触に相手を辿ると、そこに蓮が居た。咲は呆然と部屋を見渡す。「夢?」「夢じゃないよ」 ここが学校

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   155 寂しいと思った

     智の投げた炎が、ハロンの興味を彼の元へ引き付ける。芙美と中條はその隙を狙って、咲の居る位置まで坂を駆け上がった。 この間、絢と次元隔離の魔法陣を描きに行った場所の一つだ。あの時魔法陣に不備はないように見えたが、うまく作動しなかったらしい。 むせる様な土の匂いがして、なぎ倒された木々が道を塞ぐ。ここでの戦闘は、想像以上に激しかったらしい。ひょいと木を飛び越える中條に続いて隔離壁の手前まで走り、芙美は目に飛び込んだ状況に悲痛な声を上げた。「咲ちゃん!」 仰向けに横たわる咲に、耕造が寄り添っている。辺りに散らばった血の色に言葉を失って、芙美は両手で口を押さえつけた。 絢

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   153 ゲージ回復

     北の空に打ち上げられた火球に気付いて、芙美は眉を顰めた。 正面から飛び掛かってきた鷲型のモンスターに指一本で火を放つと、敵は呆気なく息絶えて地面に落ちる。 魔法の垂直発射は、そこに怪我人が居る合図だ。打ち上げたのは智だろうが、そこは彼ではなく咲が配置された場所だ。まさかという予感に鳥肌が立つ。 そんな不安に付け込んで、モンスターは攻撃の勢いを強めた。 狼のような体に羽をつけた敵が、十匹ほど芙美を囲む。一つの鳴き声を合図に一斉に飛び掛かって来て、芙美は空の手を地面に向け光を放った。地面から突き上がった円柱の光が盾となり、敵の体当たりを防ぐ。 光の盾は迎撃をもこなし、敵は次々と倒れて

فصول أخرى
استكشاف وقراءة روايات جيدة مجانية
الوصول المجاني إلى عدد كبير من الروايات الجيدة على تطبيق GoodNovel. تنزيل الكتب التي تحبها وقراءتها كلما وأينما أردت
اقرأ الكتب مجانا في التطبيق
امسح الكود للقراءة على التطبيق
DMCA.com Protection Status